
季節に急かされて作るお菓子 / 創作は妄想から始まる / 甘いだけがケーキじゃない
酸っぱくて美味しい失敗 / 無いなら作ればいい / 自分にしかできないことがある場所
25歳、味のない記憶 / 東京で出会った食にアツいベーカリー / お菓子屋がサトウキビを収穫する理由

ぶどうのたねにて。
国産小麦と自家製酵母で作るパンが人気のぶどうのたねにて。
訪ねる全3回にわたるインタビュー。
Vol.1では、イタドリをつかったぶどうのたねらしい料理を囲み、
「美味しい」を生み出すパン屋の料理観を聞いてきました。
Vol.2では、イタドリにまつわる思い出をきっかけに、
パン屋という仕事に至るまで。
毎週土曜日の高知オーガニックマーケットで
行列をなすパン屋の姿を深掘りします。
明日の「食べる」をちょっとだけ愛でることができますように。

サキマイさん
正解の味はレシピにない / 食を楽しむ手引き / 差し迫るものがあるから焼いている
買うほどではない / パン屋を作 った謎の自信 / 食べられる陶芸的な仕事
正解の味はレシピにない / 食を楽しむ手引き / 差し迫るものがあるから焼いている
2025.2.23.Sun
ノマドで不便を選ぶ理由
買うほどではないけど、潜んでいる
― まいさんは、ネイティブ高知県民じゃないんですよね。
私は東京生まれで、育ちが大阪と高知、半分ずつぐらいなんよ。
おばあちゃんちが高知にあって、長期休みにはよく帰省してたけど、
高知に暮らし始めたのは中学生の時。学生寮で暮らしてた。
― イタドリとの出会いはいつですか?
高校生の時かな。友達のおばあちゃんに
「イタドリは好きかえ?」って聞かれたことがあるんよ。
私は「イタドリ…?」っていう状態やった。特に興味がわくわけでもなく、
その時は結局食べずに記憶が終わっている。
初めて食べたのは成人してから。
ひろめ市場でビールのアテに出てきて、それをつまんだ気がする。
梅と和えられていて美味しかった記憶はあるけど、
「これなんだろうな」って思ってた。
今思えば、あれはイタドリだったんじゃないかと。
― イタドリを料理したのは?
自分で料理するのは初めてだし、皮を剝いで塩漬けしたことは未だないんよ。
同じ時期に、道の駅で買ったり、お裾分けで頂くタケノコが、
冷蔵庫に溢れてたりするから。
食べ方もよくわかんないし毎回、「ちょっと今回はいいかな」って。

ノマドで不便を選ぶ理由
― 高知に来るまでは大阪に?
大阪のど真ん中にある公立の中学に入ったんよ。
そこの規律が厳しくて。
同調圧力もすごいし、協調性も求められすぎる。
すぐに「無理!」ってなって、
高知にある中高一貫の学校に転校してきたんよね。
― 意志の強い中学生だったんですね。
幼稚園から大学まで、同じ場所にずっといたことがなくって。
全部のステージで1回ずつ転校してきた。
飽きてしまうんよね(笑)
同じ場所で活動できない、2年以上は。
パン屋の今も移動に移動を重ねて生きてるんやけど。

― 最近、工房を今までよりさらに山奥に引っ越しましたよね。
マーケットで沢山の人に会えるから、
普段は人が来ないところに行きたくて。
それに、不便な場所だと、家賃が安くっていいやん。
自分のこと「貧乏パン屋」だと思ってるから。
不便で"貧乏"やと人間、工夫するやん。それが楽しいよね。
だから、不便なのが好きなのかもしれん。
この新しい工房も、ほぼ新しいものを買ってないんよ。
工房作りも、オーガニックマーケットで出会った仲間たちが
一緒に手伝ってくれて。電気配線も、内装も、引っ越しも。
― パン屋をやるまでは何をして生きていたんですか?
民族系のアパレルにいたこともあるけど、
基本的に飲食店で働いてたかな。
イタリアンで薪窯のピザを焼いたりしたこともあった。
でも、なんとなく将来はパン屋になるような気がずっとしてたんよ。
料理好きなお母さんが、パンを焼いてるのを見て
育ったのもあるのかもしれないけど。
「パンならいけるんじゃないか」みたいな。
― 直感というか、謎の自信があったんですね。

パン屋は総合舞台芸術
― それで、いま本当にパン屋を営んでいるのが面白いですよね。
陶芸するのも、絵を描くのも、楽器弾くのも、
踊るのも、書くのも好きやったんよ。
美術系の大学に入りたいと思っていたこともあるくらい。
パン屋をやっていると、それを全部活かせるから好き。
― パン屋はアートでもある?
うん。基本的に、マーケット出店がメインだからその都度、
店構えを自分でレイアウトするし、POPも自分で描く。
売れ行きもそれで変わるから、センスが問われるんよね。
あと、生地を捏ねるのが陶芸っぽい。
やっぱり美味しそうなビジュアルってすごく大事やと思うから。
「食べれる陶芸」的な。
それでいて、本当に美味しくないと売れないし。
だから、製造業というより、
もはや総合舞台芸術なのではないかと思ってる。

― 踊るのも?
そうだね、なんか…イ、インターバルで踊ったりはするけど(笑)
あと、出店に向かう運転中で眠い時は、めっちゃ歌う。(笑)
マーケットに出店する朝は、
だいたい睡眠時間1時間ぐらいで向かうから。
― それはハードですね。
その状態で毎週50組前後のお客さんに会うから、
「大丈夫だった!!?失礼はなかったか!?」って
後ですごい不安になる。
だから毎週、「今週こそはもうお客さん来ないかな」とか
考えながらマーケットに向かう。
結局、なんやかんやで売り切って帰ってくるけど。